日本からいちばん遠い国々の音楽  〜アルゼンチン音響派以降の前衛ポップ〜

by Hitoshi Kurimoto(2017.7.11)

世界にはありとあらゆる音楽が存在します。そのなかでも、個人的にもっとも面白いのではないかと思っているのが、中南米諸国。いわゆるラテン・アメリカといわれるエリアの音楽です。ちょうど日本の裏側ということもあって距離も離れているからか、我が国にはないエネルギーやセンスに満ち溢れた歌やサウンドを聴けるのが魅力。この連載では、そんなラテン・アメリカのユニークな音楽に注目してみたいと思います。

まず第1回目は、アルゼンチンの不思議な音楽を紹介しましょう。21世紀に入る頃、日本でも音楽ファンの間で“アルゼンチン音響派”と呼ばれるムーヴメントが紹介されたことがありました。どういうものかを覚えていなくても、フアナ・モリーナのアルバム『Segundo』(2000年)のインパクトあるアートワークを覚えている人は多いはずです。フアナ以外にも、フェルナンド・カブサッキ、アレハンドロ・フラノフ、モノ・フォンタナ、ガビー・ケルペルといった一風変わったアーティストたちが注目され、当時の輸入盤を扱うCDショップではかなり大々的に展開されていました。

では、アルゼンチン音響派(実は日本独自のネーミング)が一過性のブームだったのかというと、そういうわけではありません。アルゼンチンの音楽シーンには、彼らのような実験的なミュージシャンが生まれやすい土壌があり、今もなお進化しているのです。ここでは、この数年におけるアルゼンチンの前衛的なポップ・ミュージックを紹介しましょう。


どうしても外せないのは、やはりフアナ・モリーナです。彼女はアルゼンチンのみならずワールドワイドな活動を継続していて、コンスタントに素晴らしい新作を発表しています。3年半ぶりに発表された2017年の新作『Halo』では、それまでの宅録的な手法から一歩踏み出し、ツアー・メンバーとともにレコーディングを敢行。白昼夢のように幻想的なイメージは残しつつも、ダイナミックで土俗的な雰囲気を濃厚に醸し出した世界を作り上げています。ユニークというよりは不気味な印象に浸れるMVも、毎度驚かされます。

Juana Molina
「Paraguaya」

 


名実ともに“男性版フアナ・モリーナ”に位置付けたいのが、マルチ・ミュージシャンのアクセル・クリヒエール。1999年にソロ・デビューして以来、楽曲によってはとてもポップでキャッチーなメロディーを歌ったりもするのですが、ポップであっても屈折していてどこか変。クンビアやフォルクローレといった土着的なサウンドを取り入れながら、先鋭的なアプローチをしていくのが特徴です。2016年に発表したアルバム『Hombre De Piedra』も強烈な一枚でした。

Axel Krygier
「Invitame」

 


フロレンシア・ルイスも、フアナ・モリーナ同様にアルゼンチン音響派の流れで評価されたひとり。ただし、彼女はフアナよりももっと幽玄的でどこか浮世離れしたイメージがありました。透明感のある崇高な印象のメロディは心地良いのですが、やはり一筋縄ではいかないヒネリが感じられます。2016年にはこれまたアルゼンチン音響派のレジェンドであるモノ・フォンタナと共演してアルバムを制作『Parte』を制作。清らかな泉に異物を投げ込むような音響表現は、とても刺激的でわくわくさせられます。

Florencia Ruiz Mono Fontana
「Hacia El Final」

 


ここからは、少し最近のアーティストを紹介します。グオ・チェンという奇妙なネーミングを持ったアーティストは、ヴォーカリストでありサウンド・クリエイターでもあるマリオ・カポラリを中心としたユニット。クラシカルな管弦楽、民族楽器を含むパーカション類、そしてエレクトロニクスを絶妙にミックスし、おとぎの国から悪夢の世界まで様々な風景を見せてくれます。2016年の最新アルバム『Caballo, Yeah!』はエレクトロ色が強くなりましたが、相変わらず迷宮のようなサウンドを聴かせます。

Guo Cheng
「Time To Sound」

 


ここ最近、もっともインパクトが大きかったアーティストといえば、アオウトロの名前を挙げておきたいところです。サンプラーなどを駆使するマルコとドラマーのRKによる2人組で、なんとも奇妙な人力ブレイクビーツを作り上げるユニット。ドタバタとしたビートは初期のアルゼンチン音響派との共通性もありますが、ローファイながらも実は緻密に作り込んでいて、現在進行系の新世紀ジャズやポスト・ロックにも通じます。この作品はタイトルからも分かる通り、来日経験が反映されたものですが、なぜかフラメンコが挿入されたりする異色作。

Aoutló
「Pachinko」

 


YouTubeを徘徊してたまたま見つけたのが、シゴ・ラジョピネアルというアーティスト。エレクトロニクスを駆使した実験音楽といったイメージですが、4トラックのカセット・レコーダーにテルミンやフィールド・レコーディングした環境音をミックスして制作しており、どこか手作り感を醸し出しているのがアルゼンチンっぽい。フェルナンド・カブサッキとも交流があるようですが、実際の活動の詳細は不明です。

Zigo Rayopineal

 


このように、有象無象の不思議な音楽が蠢いている南米アルゼンチンの実験音楽シーン。ぜひ脳ミソにガリガリと刺激を与えてくれそうな、あなただけのお気に入り音楽を探してみてください。